明治九谷の特色を理解する上で、明治11年(1878)に発表された『明治十年内国勧業博覧会報告』(「明治美術基礎資料集」の中に収められている)は簡潔にそのことを表わしていて大変参考になります。それは次のとおりです。
『九谷の磁器に二つの美あり 二つの美とは何ぞや 一つは赤色の美 一つは金色の美なり 然るにこの二つの美はかえって他の二つの醜の為に隠蔽されて 常にその実相を表わすことができない 二つの醜とは何ぞや 一つは形体の醜 一つは画様の醜なり』
当初、赤絵金彩は九谷焼の美点であると評価されていましたが、素地や陶画については“見た目がみっともない”と評価されていたと見られます。しかし、二つの“醜”は技量のある陶工によって素地が、優れた陶画工によって陶画がそれぞれ改善されたことによって、“醜”が“美”に変わり、明治九谷は「大日本九谷」「九谷造」などのブランド名を付けて陶器商人たちによって大量に輸出されることになりました。その報告に、他の磁器産地に見られない、明治九谷の特色が見えます。