明治九谷の作品解説 石野竜山 赤絵金彩秋草図水滴

墨を摺るため硯に水を注ぐための小さな器が“水滴”です。それだけの道具とはいえ、注ぎ口に鳳凰の頸から頭の部分が、そして把手に龍の頭から尾まで縮めて彫られています。加えて、この器の胴と蓋には秋の花が咲き誇る様子を精緻に描いていても、鳳凰の優美さがかき消されないように後ろに寄せています。

サイズ 幅(最大) 約7cm 高さ(最大) 約5.3cm

霊獣は中国でも日本でも吉祥文として使われましたが、日本では鳳凰と龍が最も深く根付き、至福、繁栄、長久などの特別な意味づけをしました。さらに、鳳凰と龍を一緒にして、これ以上は考えられない繁栄がやってくることを意味づけし、あるいは、鳳凰と龍が心身に潜んでいるような人物はいつか優れた能力を発揮するであろうと、期待される人物を意味したといわれます。

一方、竜山は、多くの名工が自分の銘にちなんだ図案や考えを作品に取り入れたように、銘に含まれる“竜”(龍も竜も同じ意味)を造形として取り入れました。おそらく、陶芸の技量を身につけ、期待される陶画工になり、そして家業の絵付業が繫栄してほしいといった願いをこの作品に込めたと思われます。(その願いが竜山の作品「色絵四君子図蓋付き碗」に現れたと思われます)

水滴は、硯などともに、重要な道具のひとつとされ、江戸時代以降、高度な金属加工の技法を駆使して、動物や植物などの意匠をこらした水滴がつくられましたが、竜山は陶磁器で鳳凰と龍を取り入れて見事に制作しました。竜山は、37歳になってなおも、研究心が旺盛で、八幡の松原新助窯で製陶の指導を受け、素地と絵の具の相性を研究した経験をこの水滴の制作に活かしたと考えられます。作品制作の着想にも素地の成形にも名工の巧みさが小さな器に凝縮している作品です。

銘は、高台に「竜山」の小さい角印が朱で押され、共箱の蓋裏に「金城/竜山」と墨で書き入れた上、やや大きい「竜山」印が朱で押されています。