黒く塗りつぶされた外側の面には和歌が金で書かれていますが、その和歌を視覚的に飾るために内側の面に四季の景物(四季折々の趣のある事物、自然の風物)が描かれています。内側の四季の図、文様などと外側の黒い面とが際立たせるところが洒落ています。
寸法 口径 約17.4cm 高さ 約10cm
外側の面は真っ黒に塗られ、その上に金で和歌二首と松の樹が描かれています。この和歌は、内側の多彩な図案によって装飾されているようです。
内側の面は八つに分けられ、“四季”おりおりの景物、が描かれ、別の四つには金彩の草花、金襴手の文様、吉祥雲などが華やかに繊細に描かれています。見込みには染付で描かれた鶴と吉祥紋が金彩で飾られていて、珍しい構図となっています。
四季の図については、春は梅に鶯、夏は衣桁(*)、秋は紅葉、そして冬は枯れ葦が描かれています。
*衣桁(いこう)は、和服をかけておくための道具で、汗ばんだものをしばらく風に当てておくために使われます。そのため、夏を表すとされます。
鉢の形は、鉢を伏せてみると、兜のように見えることから、兜鉢と呼ばれたものです。江戸末期の吉田屋窯の兜鉢に見られた形ですが、明治九谷では比較的珍しい鉢の形です。
この鉢の成型の美しさは見事で、縁に向かってだんだんに薄くなっていき、反り返っているように成形されています。合わせて、やや高い高台の造りにも美しさがあります。
銘は金字で黒の側面に「九谷/上出」と書き込まれています。それは側面の和歌の下に、見落としてしまいそうなほど小さく書かれています。