明治九谷の作品解説 下出梅仙 赤絵染付龍図鉢

鉢の内と外に龍と荒波が描かれているだけですが、龍は赤の細描が、波は濃淡で荒々しさが表現され、その色の対比も見事です。

大きな龍の図案は九谷焼では数少なく、龍を描いて高い評価を受けた須田 菁華「染付龍文花瓶」(石川県立美術館所蔵)と比べてみてもよいほど見事な龍の図です。

寸法 口径 約14.6cm 高さ 約9.6cm 高台径 約6.6cm

暗い天空から舞い降りてきて、海面をのたうち回わる赤の龍と群青の荒波とが、鉢の内側からはみ出すように外側にまで及んで、まるで一幅の絵のように見えます。下出 梅仙の師であり、赤絵金彩細描の名工 浅井 一毫の作風の片鱗がうかがわれ、金彩がなされていないだけ、よりダイナミックに見えます。

須田 菁華の「染付龍文花瓶」に見られる5本爪の龍は、皇帝の器具や建物だけに使用が許されたものなので、威厳のある龍に描かれています。一方、この龍は皇帝以外の者に使用が許されたという3本爪の龍なので、穏やかな様子であり目つきにも優しさがあります。

暗闇の中の波が絵画のようにぼかしや濃淡をつけて描かれ、荒々しさが上手く表現されています。絵の具の群青で描かれているかのように見えますが、共書きの「染付」のとおり、染付だけで暗闇の中の荒波が浮かんで見えるように描かれています。

銘は「九谷/梅仙」と書き入れています。他より幾分高く、やや末広がりの高台の中は釉薬の掛かけているところとそうでないところがあり、その銘は釉薬のかかっている盛り上がりに載せるように書かれています。