この作品には九谷庄三が江戸末期に開発した“彩色金襴手”(赤ではなく、さまざまな中間色で描かれた図案の上に金で細い輪郭線を描く様式)によって、禽獣図、花鳥図、山水図などの金泥を焼き付ける図案が全面に描かれています。この画風は「庄三風」と称され、明治九谷の代表的な画風となりました。「庄三風」の作品は明治前半に九谷庄三自身により制作され、また庄三工房から量産されました。
サイズ 径 約31cm 高さ 約9.2cm
見込みには庄三の代表的な図案であった禽獣図が“彩色金襴手”で彩色されています。庄三は農村の風景を好んだといわれ、この作品では、がっしりしていて力強そうな雄鶏が農家の庭先にいる、当時の日本の農村でよく見られた情景が大鉢の中心に描かれています。
その一方で、明治初めに見られた、きまりきったような中国風の山水図、人物図も描かれています。興味を引く図案が、文人たちがいる部屋の窓から見える山水図が、左の割取に描かれた山水図から取りこんだような図案となっていることです。
裏面には4か所に大きな花が描かれ、緑の裏面は庄三がよく使った黒呉須で描いた花の文様で埋め尽くされています。
庄三の名声が高まるにつれ、庄三の銘にはいわゆるブランドの意味が込められていました。当然、自ら制作したことを表す一行書きの銘「九谷庄三」もありますが、それは希少であって、大部分は工房の製品であったことを表す二行書きの銘「九谷/庄三」であるといわれます。それでも、この銘のある製品は“九谷庄三(工房)が制作したもの”と見なされたといわれます。